会員制サイトの記事なので何ですが、漢方外来の患者に女性が多いのは何で?という記事です。

冷えは万病のもと
 冷えも漢方外来を受診する女性に多く見られる症状の1つである。磯部氏は「冷えが主訴の男性がいないわけではないが、女性の方が圧倒的に多く、主訴が冷えでなくても冷えの症状を訴える女性は大変多い。冷えには血流や新陳代謝などが関与し、自律神経の乱れや機能低下が原因となる。また、筋肉の緊張を高め、血流をさらに低下させるという悪循環につながる」と指摘した。
 冷えは多くの症状や疾患と関連性があり、肩凝り、頭痛、腰痛、痺れ、腹痛や便通異常(便秘や下痢)、生理不順や不妊などの原因の1つとなる。さらに、冷えがあるとかぜをひきやすくなったり不眠症になることもまれではない。西洋医学的には冷えの治療は難しいが、漢方には体を温める効果のある生薬が多く、冷えに有効な処方は多数あるという。


「 漢方外来、女性患者が多いのには理由がある 」 https://medical-tribune.co.jp/news/2019/0329519640/

えーと、「冷えが万病のもと」って漢方界隈でめっちゃよく言われるんですけど、これは一体誰が言い出したんですかね? 本文でなく見出しなのでこの記事に出てくるお医者さんが言った訳ではなく、記事を書かれた方が勝手に付けたものだと思うのですが…。

日本の漢方というと大体「傷寒論」という寒さによる病を中心にしたと言われている本がバイブルになってる訳ですが、だからと言って冷えの愁訴が頻繁に出てくるかと言うと全然そんなことないんですよね。 「傷寒」というのは「寒さによる病あるいは寒さと愁訴とする病」というよりは「寒い時期・寒い地方の病」という意味合いが大きく、冷えというよりも寒風や乾燥にさらされることによる感染症の方が病因としては多いんじゃないでしょうか。

そもそもですね。

東洋医学において病の発生ってまずストレスによる生理機能低下があって、そこから気温や湿度、日照などの急激な変化にさらされて感染なり免疫機能の異常なりあるいは循環低下による各種愁訴があらわれる、と考えるのであって、冷えは外的環境のうちのほんの一要因にすぎないのです。熱さでも湿気でも乾燥でも病は起こします。

さらに言えば東洋医学の最も基本となる古典医学書(黄帝内経素問)で「百病の始まり」「百病の長」とされるのは冷えではなく風ですので、東洋医学に携わっている立場で「冷えは万病のもと」と言ってしまうのはかなり恥ずかしいことであります。

 女性で最も多かった主訴は頭痛、次いで不眠、腰痛、肩凝り、倦怠感、冷え、めまいなどの順であった。また、主訴に限らず問診票に記入された症状では、肩凝りと冷えが30例超と非常に多く、疲れやすい、腰痛、不安感、夜中に目が覚めるなども多かった。同氏は「精神と身体を切り離さない漢方治療の有用性が示唆される」と述べた。



「 漢方外来、女性患者が多いのには理由がある 」 https://medical-tribune.co.jp/news/2019/0329519640/

ここに出てる愁訴って現代医学で有効に改善する手立てがないから漢方外来に患者が流れてきている分なんですよね。一方感染症の愁訴(熱やのどの痛みなど)については現代医学が有効に対処しているので漢方外来に来る方は少ない、という関係がある訳です。

そういった小〇製薬みたいなある種のスキマ産業的な立場が今の東洋医学の立ち位置ですので、ただ漢方外来に冷えの愁訴で来る人が多いからって「冷えは百病のもと」なんて書いてしまうのは記事を書いた方の不見識だよなぁ、とモヤモヤするのでありました。