肩こり・腰痛と並んで鍼灸院に来られる運動器系三代疾患といえば膝痛です。
ほとんどの場合、整形外科で「変形性膝関節症」と診断されておりまして、経過が良くない、あるいは手術を勧められているが保存療法で進めたいということで来院されます。それ以外でも膝痛で来院される方はありますが、今回は変形性膝関節症に絞ってお話します。
変形性膝関節症は整形外科での治療が痛み止めとヒアルロン酸注射、重度になると人工関節手術ということで対処療法ばかりだということに対しての不満をこぼされる方が非常に多いです。一時グルコサミン・コンドロイチンなどが流行りました(様々な研究の結果ほぼ効かないとされています。本当に効果があるならお医者さんが保険で出してますよね…)が、効果のあやふやな健康食品に頼ってしまうほど有効な治療法がない分野だと言えます。
人工関節は対症療法では無いのですが、術後の評判は今ひとつです。もうひとつ人工関節を入れるケースの多い股関節では術後トラブルで来院される方というのは少ないのですが、膝関節の場合は術後でも膝トラブルで来院されるケースが多いです。膝関節は股関節に比べ構造が複雑でありまして、人工関節にしてしまうと従来より膝が曲がらない、また人工関節周辺に負担がかかり繰り返し炎症するケースが割と見受けられます。
変形性膝関節症の原因は膝軟骨のすり減りというのはよく言われるのですが、その割にリハビリは運動療法を用います。膝軟骨がぶつかって腫れているのに運動してしまうともっと腫れるのではないかと思われますが、それで効果が出ているということはただ単に膝軟骨が減っているという事よりも、膝周辺の筋肉バランスの悪化で軟骨同士が強く押し付けられていることの方が悪影響なのでは無いかと考えられます。膝関節包の内圧を高めて接触を減らせるという点ではヒアルロン酸注射も同様です。
では鍼灸院では何をするかというと、一つは炎症に対する処置、もう一つは膝や太ももの筋肉の過緊張を取って膝への圧力を減らします。
鍼灸で炎症が取れる理屈ですが、細胞は外的な力で壊されると炎症物質を放出します。その炎症物質が血管の壁(レンガみたいなものです)に触れるとレンガは膨れ上がって歪み、目地の間に隙間ができます。その隙間から血液中の液体成分が血管の外へと滲み出すことでパンパンに腫れるのです。つまり、この血管の壁を収縮させてやると炎症は収まります。血管の壁は自律神経系に刺激を与えることで収縮させることができますので、鍼灸ではその仕組みを利用して炎症を抑えます。
筋肉のバランスについては、特に太ももの筋肉の緊張状態が最も悪影響を及ぼしますので、その緊張を取ると同時に、その筋肉への負担を減らすための普段の生活上の改善点を探す事を行います。
変形性膝関節症は軽度のうちであれば炎症や筋肉バランスの問題で膝の中が圧迫されるのを抑えられれば進行を止めつつほぼ問題なく生活を送れる疾患ですので、定期的なケアを行なっていただきたいと思います。