食養生・健康法として薬膳は確たる地位を築いています。レストランで薬膳メニューを出すところも増えましたし、女性誌を見ていてもかなりの頻度で薬膳レシピが掲載されていたりします。TVの料理番組でも薬膳という言葉が普通に出てくるようになりました。
私も折角漢方の知識があるのだから薬膳についても勉強しようと思った時期がありました。
が、勉強していくうちに様々な疑念が生じ、勉強するのをやめてしまいました…。結論から言えば薬膳は漢方とは別物なのです。
医食 “異” 源?
実は薬膳の「医食同源」という考え方、長い漢方の歴史の中にはないんですね(^^;「医食同源」は1970年代の日本で生まれた造語です。
http://www.igakutogo.com/ishokudougen.html
http://mayanagi.hum.ibaraki.ac.jp/paper04/sinica98_10.htm
古代の漢方の養生法において食を重要視していたのは確かなのですが、古典医学書に掲載されているもののなかで現代薬膳のように食事全体に効能を求めるようなレシピや食材集はごくわずかです(それも病後・産後の養生食のみ)。2~3世紀ぐらいに薬膳的なことが流行った時期もあったようですがその後廃れており、書物も失われているため真偽のほどはわかりません。更に言えば、様々な医学書に薬は毒草から作るようなものだからみだりに服用すべきでないという戒めが書かれており、医と食が同源というのは違うのではないかと私は捉えています。
古典医学書における食養生とは薬膳のように「何を食べるか」ではなく、「生モノは食べるべきでは無い」とか「旬から外れた未熟あるいは過熟のものは避けるべき」とか「どの時間帯には食事すべきで無い」とか「よく噛んで食え」とかそういった食べ方の話が中心です。
※このあたりの話が非常によくまとまっているのが江戸時代の健康書のベストセラー、貝原益軒の『養生訓』です。
他にも、薬膳では食物の色から薬としての効能を分けたり舌で感じる味から効能を分けたりといったことがあるのですが、これらは漢方の理論を曲解しており、本来の生薬学と付き合わせるとつじつまが合いません。さらには生薬学では定義のない食材の薬性が薬膳の世界で独自に定義されたりしているのですが、この部分は漢方ではなく現代栄養学をアレンジして漢方風に書き換えています。それなら最初から薬膳でなく現代栄養学を勉強した方が変なこじつけも無くて良いというものです。
ここまで薬膳を非難してきましたが、食材としても薬としても使われるモノも少数ながらあります。薬味と呼ばれている生薬群です。
薬味のススメ
「薬味」は元々薬の効能の方向性を示す言葉です。例えば「酸」はすっぱい味のことではなく体内の循環系を引き締める役割のこと、「辛」は辛い味ではなく体の中のものを外へ発散させる働きがあることを示しています。
この薬味を加える=加薬味という言葉があり、そこから加が取れて薬味と言われるようになったとか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E8%96%AC
薬味は手軽に栽培できて食材としても活用できる生薬群です。代表的な薬味と言えば、生姜・葱・紫蘇・生姜・大蒜・山椒あたりでしょうか。どれも生命力が強く放って置いても育つ植物です。薬味のそれぞれの薬としての性質を知っていれば、日常のちょっとした不調に対して薬味を添えて対処するといったことが可能になります。
また、薬膳のように入手の難しい食材を多用したり食材のチョイスに制約がかかったりということが無く、簡単に手に入るモノで手軽にできるのも薬味の魅力です。
どんな薬味にどんな効能があるかについては、次回以降に順次紹介していきます。