鍼灸に限らず東洋医学全般ですが、体の不調が起こる原因はまずストレスや不養生によって生理機能が落ちることから始まると考えます。これを内傷といいます。
ですが、内傷の段階では体の不調はまだ自覚できません。この状態が未病です。ここに更に温度・湿度や風などの環境の変化があった時に適応できずに不調を起こす、あるいは低下した体力に見合わない労働をしてしまい発症するといった形で病を起こします。
ですので、東洋医学で治療をやる場合、①生理機能の低下を見つけて発症前に予防する②発症した場合には原因を取り除く、という2つの治療を行うことになります。
この発症原因のうち温度・湿度・風などのことを外邪と呼びます。風邪・熱邪・暑邪・湿邪・燥邪・寒邪と6種が設定されていて、それぞれに引き起こす病が異なります。
この発症原因の外邪と内傷について、何回かに分けて解説をしていきたいと思います。
風邪
カゼではありません。フウジャです。風が体に当たることを指すこともありますし、雹や突風などの急激な気象変化を指すこともあります。季節としては2~3月頃の気候です。この風邪は百病の長とも言われ、発症しやすいことに加えて他の外邪をいっしょに呼び込む性質があるとされます。
病症としてはいわゆるカゼ等の感染症の諸症状(発熱・悪寒・頭痛)、胃腸炎、脳卒中、めまい、筋肉のひきつり、不眠などがあげられます。
感染症
2~3月の病の流行といえばインフルエンザB型、ノロウィルス、花粉症などがあります。 私見ですが、2~3月は一年でも最も気温が低く空気中の水分量が最小になる時期であり、空気感染・飛沫感染をする感染症にとっては非常に都合のよい時期です。花粉症についても同様でしょう。
脳卒中
一方で脳卒中も風邪によるものとされます。ヒートショックに代表されるように急激な温度差にさらされると脳出血や脳梗塞などが引き起こされることはよく知られています。これと風の関連ですが、これは気化熱で急激に体温を奪われることを示唆しているのではないかと思います。
めまい
めまいについては他の外邪でも引き起こされることがあるのですが、風邪によるもので言えば頸部のリンパ節の腫れがある場合が目立つように思います。
これも私の臨床上からの私見ですが、寒い時期の冷たい風・あるいは季節に関係なく冷たい飲食物で喉を強く冷やした後に頸部のリンパ節の腫れが発生しやすい様に思います。おそらくは冷やすことで口~喉のリンパ節の防衛機能が一時的に弱まってしまい、喉が感染症にかかりやすい状態を作り出してしまっているのではないかと考えます。
筋肉のひきつり
まぶたのピクピクなどひきつりと、筋委縮による筋のひきつりの両方を風邪によるものとしています。
まぶたのピクピクは眼精疲労や睡眠不足などの過労によるもので、 東洋医学的に言えば風邪と関連の強い肝と、さらに肝と結びつきの強い血の不足によって起こされる病だということになります(現代医学でいう貧血とは異なります)。筋肉に対する栄養・休養不足といった面で考えればいいかと思います。
筋委縮は最近ではサルコペニアであったりフレイルと呼ばれるものです。古典医学書には2~3月にこの筋委縮が起こりやすいとあり、私の臨床上の経験でもこの時期にグッとこの症状を訴える方が増えると感じています。
https://www.almediaweb.jp/pressureulcer/maruwakari/part9/01.html
上のリンクのページの表2にサルコペニアの発症原因の分類がありますが、この表にあたはまらない、まだそれほど高齢でもなく基礎疾患がなく日常的に運動習慣のある方でも2~3月に発症するケースを見てきました。
黄帝内経という古典医学書には「冬に精を蔵せざれば春に温を病む」とあり、この「温を病む」の中にサルコペニアに該当する表記があります。そこからの推測ですが、気候が春になり日照が長くなりはじめると動物や昆虫が活発に動き回るように人の身体にも変化が生じ、寒さに耐えるために収縮させていた血管を活動に向け拡張して血液量を増やしたり、筋肉量を増やそうとするのではないでしょうか。その際に体に蓄積されていた各種の栄養が不足していると「栄養に関係するサルコペニア」を発症するのではないかと考えます。
風邪の予防
ここまで見てきたように、風邪というのは複数の病因の総称となりますが、基本的には①短時間に強い冷えにさらされること、②低温乾燥で感染症にかかりやすい環境にさらされること、それから③筋肉への栄養供給や休養の不足の3つが大きな発症原因になると考えられます。
ですので、病の予防としては①気候に合った服装・空調をして極端な寒暖差にさらされないよう気を付ける、②手洗い・うがい・マスクの着用など基本的な感染症対策を行う事、③適切に休養をとる事という割と当たり前な事柄をきちんと行う事になります。