鍼灸というのはメカニズムの解明がなかなか進まない分野です。

昭和期の早い時代(1930年代ぐらい)からお灸の際にできる火傷で作られる熱変性蛋白質(ヒストトキシン)というのが免疫機能を亢進することでお灸は効果を現すのだといわれてました。ところがヒストトキシンについて詳しく調べようと思っても、それが具体的どんな蛋白質で、免疫にどのように関与するのかは調べてもどこにも見当たりません。それどころか1950年代以降にはまともな論文が無く、ヒストトキシン説は眉唾だなぁと個人的に思っていました。

 …ところが実はごく最近になってHsp(ヒートショックプロテイン)というのが今通用する呼称だというのを知りました。どうりで論文が無い訳です。ヒストトキシン説自体は1930年代、Hspの発見は1960年代なのでもう結構な時間が経っているのですが、鍼灸学校の教科書には未だにヒストトキシンという名称が載っていまして業界のダメさを痛感するところであります。

 気をとりなおしまして。Hspは細胞が様々なストレスを受けた際に細胞の中で作られて放出される蛋白質です。Hspにはいくつか種類があり、それぞれ対応するストレスが異なるのですが、中でも熱に反応するのがHsp70だそうです。

 その働きですが、再春館製薬所のサイトにわかりやすい解説がありました。さらにそこからかいつまみますと…

  • ストレスでダメージを受けた蛋白質の修復を促進する
  • 修復できない蛋白質を分解して無害化する

 このあたりの効能はがん疾患にお灸や温熱療法が有効といわれる所以でもあるようです。

 それとHsp70には炎症を抑制する作用があることもわかってきています。ただし、そこまで万能かというとそうでもなくて、自己免疫疾患(アレルギーや膠原病など)の場合には却って症状が悪化することもあるらしいです。漢方医学では自己免疫疾患は熱性疾患に分類されますが、中国の古典鍼灸書にも熱性疾患の場合は灸はダメと記されておりましてこのあたりは符号するなという感じです。

 ただし、全身を温灸したり、炎症している患部に灸する時ならともかく、通常の灸は場所が限局的であり発生する熱量というのは微々たるものです。(熱いですけどね。)発生するHsp70もごく微量と思われますので、それはそれでまた別にまだ発見されていない機序があるのではないかと思ったりもします。