夏土用に入りました。一年で最も暑い時期です。
毎年この時期になるとテレビや新聞で熱中症の予防や応急処置の特集が組まれるようになりました。今年の8月は大変な猛暑だという予報で、熱中症で倒れる方が大変に増えるのではないかと言われています。
さて、一緒にいる方が熱中症になってしまったら、どうしますか?
応急処置として代表的なものとしては
- 頭や首筋を冷やす
- 日陰へ連れて行く
- 水分補給させる
といったところでしょうか。
ところが、古典医学書には全然ちがう処置が書かれていました。出典は後漢の頃に書かれた「金匱要略」という本です。実に1800年ほど前の書物ですね。勿論漢文で書かれていますが、そのまま書くと訳が分からないのでかいつまんで訳しますと…
熱中症になったら冷やしたらダメ!草履を曲げておへその周りを丸く囲んで、その中に3人で小便をして温めなさい。草履がなかったら泥でおへそのまわりに堤防を作ってもいいです。草履がなかったり泥がなかったり小便が出ないなら、そのへんの熱い砂をおへその上に山盛りにしなさい
(原典:『金匱要略』雑療方二十三)
(゚д゚ ) …
(゚д゚ ) …
( ゚д゚ ) …おしっこ?
いや、おしっこ自体は重要じゃ無いんです。大事なのは「(お腹を)冷やさない」「おへそを温める」という2点です。実は今でも熱中症の治療のためにおへそにお灸をするという先生は結構おられるようで、有効な治療法です。
漢方医学においては、お腹は体の熱や水分を循環させるポンプのような働きがあると考えられています。そのため、お腹が冷えると働きが低下して体の熱循環が停止し、頭にこもった熱が逃せなくなります。それでも気温が暑くなければ汗で体外へ熱を逃せるのですが、夏場になるとそれだけでは追いつかなくなり、頭に熱が溜まって昏倒します。これが漢方が考える熱中症のメカニズムです。
そのため、ここで「冷やすな」と書かれているのはお腹のことです。夏場は冷たい食べ物・飲み物を大量に摂ったり、汗をかいたまま日陰で風にあたったりと、意外なほど体の中を冷やしてしまう季節でもあります。熱中症を起こしてしまう背景にはこのお腹の冷えによる熱ポンプ機能の低下があると考えられておりますので、お腹はむしろ温めて頂いた方がポンプの働きが回復し、体の中の水(と熱)の循環が良くなって内側から頭が冷えやすくなります。同時に外から頭や頚部を冷やして頂くと、さらに効果的でしょう。
鍼灸師が応急処置に当たる場合はおへそにお灸をすればよいと思いますが、お灸が無い場合、おしっこというのは流石に衛生的にも心情的にも問題がありますので、熱された砂や石ころをおへその上に載せてお腹をあたためてあげれば良いかと思います。使い捨てカイロでもいいですが、夏場だと入手しづらいかもしれません。40~42℃ぐらいのお湯を透明ビニール袋に入れるのも良いかもしれませんが、その場合はお湯が冷めたらこまめに換えてあげて下さい。