鍼治療の好転反応とは?症状の説明と仮説
鍼治療には「好転反応」と言われる現象があります。
施術後にまれに起こる一時的な体調変化のことで、次のような症状があると言われます。
- 症状の悪化・めまい・吐き気・発熱・頭痛・咳・寒気・下痢・炎症・かゆみ・発汗・眠気・不眠・倦怠感
これらが起こる理由としては
- 筋肉や筋肉の緊張が緩和され、身体が正常に戻ろうとするため
- 血液循環が悪かった箇所の血流が良くなり、代謝が上がるため
- 身体に溜まった老廃物や疲労物質などが血中に入り、排出される過程で体調に変化が現れるため
- 鍼灸治療によって自律神経の調整が行われることで身体が自己治癒を促すようになり、この過程で一時的に好転反応による症状が現れるため
などと言われていますが、どれも根拠の薄い俗説であり、個人的にはどれも的外れではないかと考えています。また、治療ミスや実力不足を誤魔化すのに好転反応という言葉が都合良く使われている側面もあるようです。
では、実際に好転反応とはいったい何なのか、現在私が考えている仮説をご紹介します。
仮説:好転反応の原因は副交感神経・副腎皮質ホルモン・脳虚血
私の考える仮説の前提として、まず鍼治療によって肉体的・精神的ストレスが軽減・除去されるということがあります。その上で、体に起こる変化を考えた時、
- 1:リラックスすることで副交感神経優位になって起こす症状
- 2:ストレスから解放されてコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の分泌量が正常化することによる症状
が発生します。
さらに、鍼で血流障害を改善させた際に血圧の調整能力が追い付かないことで
- 3:短時間の脳虚血による症状
が起こることもあります。それぞれの症状について、仕組みを詳しく解説します。
1:副交感神経優位による症状
副交感神経は自律神経のうち、休眠・回復のための機能です。
消化吸収能力を上げるために、血液を骨格筋から内臓へと移動させる
眠気や心地いい倦怠感などは、副交感神経優位によるものです。
また、運動をする必要がないことから血圧は下がりますので、人によってはたちくらみが起こることもあります。
2:コルチゾール分泌量正常化による症状
好転反応のうち、これが最も厄介でしょう。
コルチゾール(副腎皮質ホルモン)は所謂「内服ステロイド剤」と同じもので、命の危機の際、ケガや病気などを無理矢理に抑え込んで動くためのものです。
免疫系の働きを止めることで強力な抗炎症作用を発揮して腫れや痛み・感染を無視できるようにしたり、活動に必要なエネルギー源となる糖を血液中に多く供給するための様々な働きをします。
ストレスを受け続けていると2~3倍の量のコルチゾールが分泌されるといわれるため、そういった方が鍼治療を受けてストレスから解放され、コルチゾールの分泌量が正常レベルに戻ると、次のような問題が生じます。
A:免疫機能が回復する
コルチゾールにまつわる好転反応で多いと思われるのは「実はカゼをひいていたけど、コルチゾールが免疫を止めていたので症状がでなかった」というケースです。
感染症の症状の大半は免疫が異物を攻撃する際に起こしているため、ストレスでコルチゾールの分泌量が多くなると免疫の働きが低下することから、入ってきた異物が野放しに近い状態となります。
そうすると、コルチゾール量が正常化して免疫機能が回復したとき、増殖した異物に対して免疫が一気に働き、それにより様々な症状が現れます。
普通のカゼなら発熱・頭痛・咳・寒気・発汗・いやな倦怠感など、胃腸炎なら吐き気・下痢などが出るでしょう。
感染症だけでなく、かゆみや炎症などのアレルギー系の症状なども同様に現れます。
B:低血糖を起こす
コルチゾールには活動のために血糖値を上げる作用があり、朝の起床後に多く分泌することで睡眠中に下がった血糖値を戻す働きをしています。
ストレスから解放されコルチゾール量が減ることで、一時的に低血糖状態になって倦怠感やたちくらみを起こす可能性はあるかもしれません。
3:短時間の脳虚血による症状(たちくらみ)
人体には血圧を一定に保つ仕組みがありますが、元々の頚部の血流障害の程度が酷かったり、血圧調整の働きの鈍い方では、血圧の低下にその働きが追い付かず、くびや肩の治療後に起き上がったときに一時的に脳虚血(たちくらみ)を起こすことがまれにあります。
一時的なものですので、5~15分程度横になって安静にしていることで血圧調整機能が作用して自然に回復します。
好転反応をどうにかできないか?
副交感神経由来・副腎皮質ホルモン由来のどちらのケースでも、ストレスレベルが高くなり過ぎた状態で施術を受けている事が問題となります。
こういった場合、ストレスの原因を一度に除去せず、短時間の施術を短い期間に繰り返し行うことで、一度の体に与えるショックを少なくするといった工夫が必要となります。
この方法は通院の手間がかかる上に、施術後に感じられる快適さも少なくなるデメリットがあり、好転反応による負担とのトレードオフになるため、患者と施術者の間で話し合って方針をきめるべきでしょう。
他にも、施術スパンを今までより短くしてストレスが大きくなる前に治療する、施術スパンは変えないがセルフケアや生活改善などで溜まるストレスの量を減らす、などが考えられます。
好転反応は副交感神経やコルチゾールの感受性に大きく左右されるために誰にでも起こるわけではないのですが、鍼で体はよくなるけど好転反応がツラくて…という方は是非参考になさってください。