座るは万病のもと…だけど
「一体なにを言ってるんだ?」と言われそうなタイトルから始まりました。そう、座るという行為は実は体に良くないのです。
しかしながら人間は悲しいかな直立二足歩行をする唯一の動物、疲れた時には座らずにいられません。我々は直立二足歩行を選択して生存競争で優位に立つ代償として、死なないけれど鬱陶しい数々の症状に悩まされることになったと言ってもいいでしょう。まさに人の業です(笑)
今回はなぜ座るのが体に悪いのか、座ることを避けられない我々人類はどのように座ることと付き合えばいいのかについて触れていきます。
座るのは体に悪い、とはどういうこと?
座る、といっても、床に腰を下ろす場合だけでも正座をする、あぐらをかく、足を投げ出して座る、横すわり、三角すわりなどがあり、椅子に座るとしても背もたれの有無、座面の傾斜や湾曲などで姿勢がことなります。(※なお、いわゆる「ヤンキー座り」は除きます。「座る」と名前がついていますが、実際には「しゃがむ」だからです。)
が。
このすべてが「体に悪い」です。
ではなぜ体に悪いか。それは座ることに共通するのが「おしりと裏ももに体重を預ける」という点だからです。
股関節の縮みで血流が悪化
この図は左のお尻と太もも周辺の筋肉を抜き出したものです。青くなっているのが一番表面にある大殿筋で、その下にいろんな筋肉が通っています。
ちょっとわかりにくいですが大殿筋をスケスケにした図です。ぱっと見ただけでもお尻の上、太ももの付け根の外側と内側、お尻の奥とで筋肉が重なっているのが見えます。
長時間座っていると、この筋肉の重なりのどこかを圧迫しつづけることになり、結果……くっついてしまうんですね、組織同士が。
そうすると、くっついた箇所で筋肉が引っかかってしまい、股関節が縮こまってしまいます。この股関節の縮みが骨盤の中を通る足の付け根の大きな血管を圧迫することで、全身の血液量・血圧のバランスをおかしくしてしまいます。
たとえば付け根の血管が圧迫された側の足では血液が十分に得られないため、力が出ない、体を支えられず関節に負担がかかって痛める、足先から心臓へ血液をくみ上げる力がなくてむくむ、血液で内側から足をあたためられず冷え性を起こす、といったことが起こります。両足とも圧迫された場合は、足に本来向かうはずだった血液・血圧が頭へとつきあがりますので、めまい・頭痛・のぼせなどの症状が起きてしまうでしょう。
縮んで動かせない股関節が腰・膝の負担に
さらに、股関節は縮むと、当然動かしにくくなります。ももを上げる、股関節から体を折り曲げるといった動作がやりづらくなるので、動きにくい分をとなりの関節……上は腰(腰椎)、下はひざ関節が動くことで帳尻を合わせようとします。
ところが、腰椎もひざも、本来はグッと力を入れて支えることが得意な関節。動くのは得意ではないため、過剰な負担がかかってしまいます。
さらにその隣の関節……胸(胸椎)と足首は動くのが得意な関節ですが、隣の関節がグニグニとうごくものだから、それを支えるために固まってしまいます。
こうして、股関節の動きが悪くなることで、全身の関節の連動が失われてしまうのです。背骨でいえばストレートネックといわれる状態や、巻き肩、X脚やO脚というのもこの連動が失われた結果として現れます。
でも「座るな」とはいえない。体に悪いが便利な「座る」
このように、座ることで股関節が縮むと、体に様々な問題を生じます。しかし、だからといって、座ってはいけない、とは言えません。
我々は座って重心を安定させることで肩や腕や体幹などを脱力させることができ、それによって細かい指の動きが可能になっているのです。試しに腹筋に力をいれたままで指先での細かな動きをやってみましょう。肩に力をいれたままではどうでしょうか?脱力できていないと余計な力が指先に伝わり、細かな動きを邪魔するはずです。
そして、人の生活はこの細かな指の動きなしには成り立ちません。我々は、大変因果なことに、体に悪いにも関わらず、座らざるを得ない生き物なのです(笑)
「尻もみ」でうまく「座る」と付き合おう
ではどうすればいいのか。鍼灸院を経営している身としては「定期的に当院にお尻の癒着の掃除に来てください」というのがとしての本音ではありますが、ある程度まではセルフケアでもやり過ごせます。
さきほどのお尻の筋肉の重なっている部分を順番に深く揉み上げてみてください。その一番痛いところを力いっぱい深く大きく掴んで15秒から20秒引っ張り上げます。それだけです。
どのぐら効いているのかを調べるには、お尻を揉む前と揉んだ後とで太ももの上がり方を比較するとよいでしょう。お尻が癒着していると太ももの裏の筋肉が引っかかるためスッと上がりませんが、揉んだ後は驚くほど軽くももが上がるはずです。