花粉症に鍼は効くの?
花粉症真っ盛りのシーズン、いかがお過ごしでしょうか?
この時期、鍼灸院にも花粉症をどうにかできないか?という相談をいただくことが多くあります。
論文等で鍼は花粉症に有効だとするものもありますが、あくまで症状の一時的な緩和でしかなく、アレルギー体質の改善に効いているかというと微妙なところです。基本的に症状の緩和はできるが、根本的な治療にはならないというのが鍼の限界かと考えています。
このあたりは花粉症だけでなくアトピーなどの皮膚疾患や他の自己免疫疾患も同様で、症状の緩和はできるけど治せるものではなく、たまに見かける「鍼で免疫力をたかめてアレルギー体質を改善」みたいな言い分に関しては眉唾と言っていいでしょう。
…と否定的な見解から入ってしまいましたが、鍼治療によって数日から数週間、症状を緩和できることは確かです。
一般的によく行われるのは鼻や目に近い箇所のツボに鍼をして局所的な血行を高めることで、花粉によって炎症し充血している鼻粘膜や目の粘膜の血液を周りに誘導して炎症を緩和する方法です。即効性があり、すぐに効果を感じられる方法です。欠点として鍼による毛細血管の拡張効果は持続性があまり高くないので、数日から1週間程度の間隔での施術が必要になることです。また、顔面部に深めに鍼を入れるので、内出血が起こると目立ってしまうというのも難点です。
古文献と現代医学から考えた新手法
私は古い医学文献を現代医学的な知見から解析する研究をしていますが、実は古文献にも花粉症に近しいものがでてきます。『素問』という1800年ほど前に書かれた東洋医学の基礎となる文献の中に、次のような文があります。
春氣者病在頭,夏氣者病在藏,秋氣者病在肩背,冬氣者病在四支。
故春善病鼽衄,仲夏善病胸脇,長夏善病洞泄寒中,秋善病風瘧,冬善病痺厥。
故冬不按蹻,春不鼽衄,春不病頸項,仲夏不病胸脇,長夏不病洞泄寒中,秋不病風瘧,冬不病痺厥飱泄,而汗出也。
(『素問』金匱真言論)
漢文なので何が書いてあるのかわかりづらいですが、太字の部分について要約すると
- 春は頭部の疾患が多い(頭痛、めまい、鼻炎など)
- 春は鼽衄(鼻血)が出やすい
- 寒い冬に外でうろつかずに暖かい室内で養生していた人は、春に鼻血が出たり首筋を痛めたりすることがない
ということになります。
頭部疾患に加えて鼻血が出るということは、おそらく、春はなんらかの原因で頭部に血圧がかかりやすいということになるかと思われます。さらにその仕組みを推察していくと、
- 頭蓋内の動脈に血圧がかかると過剰な血管拡張から偏頭痛が起こったり、
- 内耳のリンパ節に余計な圧力が加わってめまいが起こったり、
- 鼻粘膜の毛細血管がより充血しやすくなって鼻炎になったり鼻血が出たりしているのではないか、
という仮説が立ちます。
その原因として、寒い冬に外でうろつく、ということを挙げていますが、この因果関係については、次のように考察しました。
- 寒いと防御反応として全身の筋肉が縮こまり、長時間その状態で置かれると組織の癒着(滑走性低下)が起こって縮んだ状態が固定化される
- そうすると、頸肩部や股関節といった腕や脚に向かう大きな血管の付け根を圧迫してしまい、手足に向かう血液量が減ってしまう
- 結果、圧迫されていない頭部への向かう血管に血液が集中してしまい、頭部に過剰な血圧がかかる
- 寒い間はあまり運動しないので問題にならないが、暖かくなって活動量が上がり、心臓が活発に働くようになると、諸々の問題が表面化する
つまり、冬の間に固まってしまった肩や股関節の深部をうまく緩めることができれば、頭部症状は抑えられる=花粉症を緩和できる、ということです。この方法の利点は、毛細血管でなく大きな血管に対する問題へアプローチするため、即効性は変わらず持続性が高いこと、顔面部に鍼をしなくていいことです。また、肩や股関節を緩めることから副次的な効果として肩・背中・腰・膝といった箇所の症状の改善もあります。
この考え方に基づく施術は今シーズンから導入したのでまだ症例数としては不十分ですが、その中での手ごたえとしては上々で、他に股関節や肩関節が固まってしまうような要因がない限り、効果の持続性はあるようです。
また、原理の上ではストレッチなどのセルフケアやヨガなどの運動を丁寧に組み合わせることで、同等の効果を得られるのはずですが、どのような動きがいいのかは今後研究していこうと思っています。