ストレッチは有効か?

肩こり、腰痛、膝痛などなど、運動器の不調があるときにまず皆さんが試されることが多いのはストレッチかと思います。ネット検索をすると、「⚪︎⚪︎に効くストレッチ!」「ストレッチで⚪︎⚪︎を予防!」といったコンテンツがずらっと出てきます。一時のブームからセルフケアとしてすっかり定着したストレッチですが、果たして本当に効いているのでしょうか?

ストレッチをめぐる論争

今から15年ほど前ですが、「ストレッチで怪我は予防できず、むしろ増えている」ということが、プロアスリートのケアに従事するメディカルスタッフの間で話題に上がるようになりました。当時はストレッチに関する体系的な研究はなく、エビデンスは無いながら「関節可動域が広ければ怪我しにくいのではないか」という考え方から慣習的にストレッチが行われていました。

当時主流であった静的ストレッチは筋肉を引き伸ばして関節の可動域を上げるのですが、その際に筋肉の興奮を抑制する作用が現れます。また筋繊維自体も伸びてしまうことから、筋肉が縮みにくい=パワーが出にくくなり(一説には出力が15%下がるとも)、結果として関節が体重を支えきれなくなって怪我をしやすくなる、というのがアンチストレッチ派の理屈です。この説は当時のスポーツ医学の世界で大きな論争を巻き起こし、ストレッチ派とアンチストレッチ派がお互いに様々なデータを持ち出して激しく争いました。

この流れの中で、動的ストレッチという概念が広く普及し、静的・動的の使い分けが浸透していきました。また、ストレッチに対する科学的な研究も進み、現在では運動前に静的ストレッチをしたからといって怪我の予防にはならないものの、怪我が増えることもないということがわかってきています。

動的ストレッチと静的ストレッチの違い

特に説明もなく動的ストレッチと静的ストレッチについて触れましたが、この二つはストレッチという名前はついていますが、結果として関節可動域が上がるということ以外は全くの別物です。

静的ストレッチ

静的ストレッチは一般に「ストレッチ」として広く認識されている、関節を広げて引き伸ばすものです。

仕組みとしては、

①物理的に筋肉を引っ張ることで、筋繊維の長さが伸びて筋肉が緩み、結果として関節が動きやすくなる

②筋肉に引っ張り刺激を与え続けることで筋肉を保護するための仕組みが働き、脳から筋肉の緊張を抑える信号が発信される

この2つの仕組みによって筋肉が緩んで関節の動く範囲を広げています。①②に共通するのはとにかく筋肉を緩めることですが、それによりパワーが必要な時に筋肉が十分に縮んでくれなくなるデメリットがあり、そのため運動前にはあまり推奨されなくなりました。

しかし、筋肉が伸びることで体に余計な力が入らなくなり、睡眠時にしっかり脱力できることから、体の回復を早める効果があることが認められています。

なお、引き伸ばされた筋繊維はストレッチをやめると5週間ほどで元の長さに戻ってしまうそうです。そのため、関節の柔軟性のためにストレッチをするなら、体が柔らかくなった後もずっと継続しなくてはいけません。

動的ストレッチ

動的ストレッチはいわゆる「ウォームアップ」です。筋肉に軽い負荷を与えることで毛細血管に流れ込む血流の増加を促し、筋肉を温めます。そうすると、筋肉はしなやかに伸び縮みできるようになるため、関節可動域が上がると同時に、筋肉の出力も高くなります。現在では運動前のストレッチといえばこの動的ストレッチを指すことが多くなりました。

こう書くといいことづくめのようですが、この働きは交感神経系への刺激の結果として起こるため、寝る前のストレッチとして行うと体が目覚めてしまい寝られなくなるかもしれません。リラックスしたい時には静的ストレッチの方が好ましいでしょう。

ストレッチで解決できない問題:滑走性の低下

では適切にストレッチを選べば肩こりなどの症状や関節可動域制限を解決することはできるのでしょうか?実際のところ、一時的な症状の改善はあっても、ストレッチだけで症状を解決することは難しいというのが実情です。

関節可動域制限に例をとりますが、可動域を制限する要素として、筋緊張以上に大きいのは組織間の滑走性の低下です。耳慣れない言葉が出てきましたが、簡単にいえば、隣り合う筋肉・腱・靭帯・骨といった組織同士の間の滑りが極端に悪くなり引っかかってしまう現象のことを言います。これは筋肉の外側で起こっているため、さまざまな方法で筋肉を緩めたとしても回復はせず残り続けます。そのため、ストレッチの効果が切れてしまうとまた症状が元に戻ってしまいます。

この滑走性の低下はファシアと呼ばれる組織間の繊維層で起こるトラブルなので、フォームローラーやフロッシングバンドなどの組織リリース用に作られた器具を使ったり、ファシアのリリース技術を持った人に手技で処置してもらう必要があります。さらに関節深部の滑走性低下になると器具や手技などではアクセスができなくなるため、深部を直接処置できるハイドロリリース注射か鍼治療が必要となります。当院でも関節深部のファシアリリースは行っておりますので、気になった方はお気軽にお問い合わせください。

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