鍼灸院に来院される患者さんの訴える症状の中で最も多い「キング・オブ・愁訴」は肩こりです。当院ですと来院される方の半数以上が肩こりを訴えられますが、おそらく当院だけでなく他の院でも同じかと思います。以前にも肩こりについて書いた気がするのですが、先日肩こりについて人とやりとりする機会があったので改めて書いてみたいと思います。

さて、この肩こりというヤツですが、症状というには非常にぼんやりした表現なんです。最近では『肩甲骨はがし』といわれるものが流行ったりして肩甲骨さえスムーズに動けば肩こりは治るなんて言われたりしますが、それは肩こりと呼ばれる現象の一部でしかありません。

症状を訴える部位だけを見ても、両肩甲骨の間・肩甲骨の下半分/上半分・肩腕関節の後ろ側/前側・首と肩先の間・ぼんのくぼの奥・首の横面/背面・首と頭蓋の境界線・後頭部・側頭部と非常に多岐に渡ります。これに加えて感じる感覚が可動性の低下だけではなく痛み/ひきつり/だるさ/おもさ/詰まった感じ/冷感/しびれなどがありまして、これによりそこで何が起こっているかも変わってきます。

これらの掛け算に加えて全身症状も加味して状態のみきわめと治療方針の決定を行います。父からは「肩こりを治せれば鍼灸師として一人前」と言われましたが、たかが肩こりされど肩こり、非常に奥の深い分野です。

特に鍼灸院というのは痛い・怖いと思われているところ(そんなことないですよ 🙁 )です。来院される頃には大体他の療法はためし尽くした後でして、揉んだり肩甲骨剥がしをしたり健康体操をするぐらいで治るようなものは少ないです。というのも原因が慢性的な疲労であったり、ストレス、あるいは消化器の不調など肩と関係のなさそうなところから来ることが多いからです。当院でよく見る代表的なものをいくつかご紹介しましょう。

肩全体がだるく揉むと気持ちいいが他人に揉んでもらうと凝っていないと言われる

元々体力の少ない人に多いタイプですが、そうでなくても慢性疲労で起こすこともあります。皮膚がいつもかすかに発汗していてしっとり(というかペタペタ)していることが多いのですが、汗と一緒に熱(=体力)も抜けていくため、いつもだるさを感じています。発汗を止め、疲労からの回復力を向上させる治療を行います。

肩全体にコリ感を感じ、首を左右や前に倒すと皮膚が引っ張られる感じがあって、揉んでも一向にスッキリしない

これは皮膚が緊張しているのですが、皮膚表面に冷たい空気が当たったために起こすもので、多くはカゼの前駆症状です。治療では少し発汗させ皮膚に熱を回して緊張を緩めるような治療を行うのですが、家庭であれば葛根湯などでよく取れます。クーラー病の肩こりもこれにあたります。

首と頭部の境目の中心あたりに強い詰まり感や重さ・冷感がある

眼精疲労による肩こりの典型的な形です。漢方では目で物を能動的に見る・読むといった行動は大量に血を消費すると言われており、目の使いすぎで血が不足するとこういったタイプの症状が起こるとされています。患部を指でほぐすと気持ちいいと同時に非常に痛いという特徴があります。患部を鍼で直接ほぐす以外に全身の血流の改善と血を増やすための治療を施すことで改善されていきます。

肩甲骨や肩甲骨の間にズーンと詰まった感じがする

このタイプは心的ストレス、特に気疲れで起こす場合、あるいは睡眠時間が短く気が十分に休まっていない場合によく見られます。また、食べ過ぎによって引き起こすこともありまして、他の証候とあわせて治療方針を決めますが、生活環境から起こるため環境の変化でコロっと治ってしまうことが多かったりします。(それが難しいから慢性的に症状があるのですが…)

肩の上面から首にかけて凝り、ひどくなるとこめかみにかけて頭痛する

これもストレス性ですが、前の気疲れタイプとは異なりイライラや我慢といったタイプのストレスから引き起こされることが多いです。これも環境の変化でコロっと治ることがよくあるタイプです。「頭に血が昇る」という表現がありますが、漢方では頭の昇るのは気です(気が集まるとそこに血も引き寄せられるので間違いではないのですが)。頭に昇った気を下へ引きさげて精神を落ち着かせる治療を行います。

代表的なモノをいくつかご紹介しましたが、ご自身の肩こりに当てはまるモノはありますでしょうか?なかなか治らないしつこい肩こりは是非一度鍼灸院にて相談してみてください。思わぬところに原因があるかもしれません。