「養生訓を読む」シリーズですが、まずは飲食篇から解説をしていきます。なぜ最初の総論からでなく飲食篇からかというと、この部分が一番儒教道徳観による影響が入り込みにくく、シンプルに解説しやすいからです。

養生訓の飲食篇は岩波文庫から出てる本で勘定しますと、150ページ中の27ページという割と短い篇です。ですが、この中で同じことを繰り返し言ったりしてますんで、要旨を圧縮するとここからさらにグンと短くなります。

(なお、引用のページ数と小見出しは岩波文庫の「養生訓・和俗童子訓」に準拠していますが、小見出しの名称は本によって異なります。)

【養生訓 飲食篇篇の要旨】

  • ①脾胃を調える
    • a:食べ過ぎない
    • b:内湿を避ける
    • c:脾胃の働くうちに食べる
  • ②気ののぼせを避ける
  • ③五味偏勝を避ける
  • ④食中毒を避ける

これらの原則を守るのにどうしたらいいのかという観点から飲食篇は書かれておりますので、先に頭にいれてから読んでいただくと非常に理解が深まるかと思います。原則の意味合いは順を追って解説していきます。

①脾胃を調える

脾胃を調るは人身第一の保養也。(p.64 飲食は生命の本、飲食は生命の養い)

胃は皆さんよくご存じのあの胃ですね。脾は…なんでしょうね。

現代医学ですと脾臓というのは血液中の古くなった赤血球を破壊して排せつするための器官ということになりますが、これは東洋医学でいう脾臓の働きではありません。東洋医学でいう脾臓は現代医学でいうところの膵臓にあたります。

(なぜそんなことになってしまったのかといいますと、「解体新書」が訳された時に脾臓と膵臓を取り違えて訳してしまったからなんです…)

 

膵臓は血糖値のコントロールをするホルモン(インスリン・グルカゴン)を分泌する臓器として知られていますが、腸で食べ物を消化酵素を分泌するのも大変重要な働きでありまして、消化器官の一部であります。

つまり、現代風に解釈するなら、消化管の状態を良好にしておきなさい、というのがこの趣旨だと思ってください。消化管の状態を良好というのは、食べ物を粥状に砕くために必要な胃壁の筋肉の運動がきちんとできること、ということです。

 

【1:食べ過ぎない】

食すくなければ、脾胃の中に空処ありて、元気めぐりやすく、食消化しやすくして、飲食する物、皆身の養となる。これを以て病少なくして身つよくなる。もし食多くして腹中にみつれば、元気のめぐるべき道をふさぎ、すき間なくして食消せず。これを以てのみくふ物、身の養とならず、滞りて元気の道をふさぎ、めぐらずして病となる。甚しければもだえて死す。(p.78 小食のよい理由)

要は腹八分目ということです。満腹も許さないし別腹などふざけるなということが書かれています。

 

満腹の何がダメかって、胃袋の中には筋肉の層がありまして、袋自体が絞り出すような運動をすることで胃の中の食べ物をドロドロの粥状にこなしていく訳ですが、袋の中身がパンパンだとその運動がやりづらくなりまして、そうすると食べ物がなかなかこなれなくなります。その結果、胃は必要以上に長時間働かなくてはならなくなり、くたびれてしまいます。

そんな状態でさらにモノを食べて、消化運動で体力を消耗するだけで身の養いになりません。ですので食事は空腹になってからにしなさい・胃もたれしているような時は一食抜いてしまえ、とも書かれています。

飣(さい)多く食ふべからず。魚鳥などの味の濃く、あぶら有て重き物、夕食にあしし。菜類も薯蕷(やまのいも)・胡蘿蔔(にんじん)・菘菜(うきな)・芋根(いも)・慈姑(くわい)などの如き、滞りやすく、気をふさぐ物、晩食に多く食ふべからず。食はざるは尤よし。(p.70 晩食はあっさりとした物を軽くとる)

この考え方の延長線上に消化が悪いモノ(獣肉類などの硬いたんぱく質や動物性の脂質)を避けろということが書かれています。消化が悪いということは胃が長時間仕事しなければならないということです。

また、意外かもしれませんが、ごはんや芋類や根菜類も度々槍玉にあげられています。この手デンプン質を多く含んだモノは胃内で水分と結びついて膨張したり、腸でガスを発生させて腹腔を圧迫することからなのではないかと考えられます。また、芋類のデンプンは加熱してから冷えると固くなりますので、これも消化しづらくなります。

飯後に力わざすべからず。急に道を行べからず。また、馬をはせ、高きにのぼり、険路に上るべからず。(p.81 食後に激しい運動をしてはならぬ)

怒の後、早すべからず。食後、怒るべからず。憂ひて食すべからず。食して憂ふべからず。(p.87 心に動揺のあるときは食うな)

それから、胃の運動は副交感神経が働いているとき、つまりリラックスした時に活発になります。ですので、食後すぐに体を興奮させること(激しい運動をしたり、あるいは感情を大きく動かすようなことをしたり)はよくないです。ただし、食後の軽い運動はむしろ推奨しています。これは「手足が動けば消化管が働く」という東洋医学の生理観によるものです。(これは個人的にはちょっと異論があるところです…)

夜食する人は、暮て後、早く食すべし。深更にいたりて食すべからず。酒食の気よくめぐり、消化して後ふすべし。消化せざる内に早くふせば病となる。夜食せざる人も、晩食の後、早くふすべからず。早くふせば食気とゞこをり、病となる。(p.67 深更に夜食してはならぬ)

更に夜遅い食事ですが、本来体力を回復させる時間に消化管が働かされる訳ですので、消化管に疲労が蓄積します。ですので当然避けましょうということになります。

 

つづきます