少し前になりますが、某所で貝原益軒の『養生訓』についてお話する機会をいただきました。

『養生訓』は江戸期の出版界に燦然と輝くベストセラー本であり、以降の日本人の健康観を決定づけた健康書オブ健康書であります。その内容は「○○しなさい」「〇〇はしてはいけません」という具体的な指示がずっと続いており、医学知識の無い方でも実践ができるように書かれております。

しかしながら、それぞれの項目について「どうしてそうなのか?」は書かれておりません。一見すると根拠が無さそうな事も書いてあります。しかし、ほとんどの項目には漢方医学の理論のきちんとした裏付けがあり、それをわきまえていれば「どうして」について解説することができます。というかそういうことを喋って参りました。

さて、本題です。現代では「旬の食べ物は体にいい」という健康観が定着しておりますが、この『養生訓』の飲食篇の中には、実は「旬のものを食べれば体にいいです」ということが書かれておりません。逆に、夏が旬である瓜類について「よほど暑くなければ夏場に食してはいけない」とまで言う始末です。「野菜は一番いい時期に食べなさい」とは書かれていますが、よく読むと「未熟で堅いもの、熟れ過ぎたものを食べるべきでない」と書かれており、旬であることよりも食べるのに適した状態になっているかどうかを問うています。

それがどういう訳か(大体がマクロビオティックのおかしな食物観が広まってしまったせいなんですが)、現代では「旬のものを食べると体にいい」と誤解されておりますが、決してそんなことはありません。それであれば冬至に夏の野菜であるカボチャを食べるなどもっての外でしょう。米など秋に取れるものを一年中食していますが、秋以外は体に悪いのでしょうか?そんなことはないですね。旬の時期はおいしいものが安く手に入る、ただそれだけです。

このように、『養生訓』の飲食篇は「何を食べるか」よりも「どう食べるか」にとても重きを置いて書かれていますが、今一つその辺りが理解されていないように思います。筆が向けば、その辺りの解説についてもいずれ書きたいと思います。