さて、薬味の薬としての性質を解説していくこのシリーズ、トップバッターは最も利用頻度の高い薬味、ネギについてお話しします。

民間療法としてカゼでノドが腫れたらネギを摺り下ろして飲むと良いとか、ネギを首に湿布代わりに巻くとか、あるいは高熱が出たら肛門に長ネギを挿す(?!)とか色々言われますが、これは生薬としてのネギの作用に由来するものです。

生薬としてのネギは「葱白(そうはく)」と呼ばれます。その名の通り、生薬として使われるのは白い部分です。ネギだけでなく、近種であるラッキョウやノビルの地上部の白い部分などもほぼ同様の効能を持つ生薬(薤白)として扱われています。

さて、ネギ(葱白)の薬効ですが、ひとつめは解熱・発汗作用です。解熱薬というと、バファリンなどの市販の鎮痛解熱薬を思い浮かべる方もおられるかもしれませんが、漢方における解熱薬は体の熱を汗とともに体外へ排出することで熱を下げます。汗をかかせるためには体を温める必要がありますので、解熱とは言いますが体を温める薬です。温める薬にも汗が出やすくなるものとそうでないものがありますが、葱白は発汗作用を持つ薬として定義されています。同じく体を温め汗を出させる作用のある生姜などと組み合わせるとより高い効果が期待できるでしょう。

また、外用薬としての利用法も古文献にはあります。しもやけや凍傷、あるいはむくみに葱白を塗ると良いと書かれています。おそらくは塗った箇所を温める作用があるからなのでしょう。のどが痛むときの湿布というのは記載が見当たりませんでしたが、当院でもノドの痛む方に首回りのお灸をしますので、ネギ湿布でノドを温めるのは案外悪くないのかもしれません。

さらに、その温める作用から胃をあたためて食あたりを防止するとされています。これが薬味としてネギを添えるときに一番期待される作用ではないかと思います。漢方では肉・魚の生食は胃を冷やし食あたりの原因になるとされていますので、そのような点から刺身などの薬味としてよく用いられるのです。

さらには、水分を取り過ぎた際に余分な水分がおなかに停滞して体の働きを邪魔するのを防ぐ作用もあります。うどんや豆腐などの水気の多い物にネギが添えられるのはこのあたりによるものかと思います。お腹が冷えて痛い場合でしたら乾燥させた生姜とあわせて頂くと痛みの原因となる冷えて停滞した水を動かす作用が期待できます。