自分以外の人に自分がどのぐらい痛いのかを伝えるのは結構難しいのです。

「痛さ」だけでなく「熱さ」「寒さ」「かゆさ」「おいしさ」など様々な感覚というのは全て主観的なものです。

同じような体験をした人に伝えるのは簡単ですが、共有できる体験のない人に伝えるのは容易なことではありません。

 

たとえば、砂漠に住む人に雪の冷たさを伝えるように。

牛肉をたべたことのない人にすきやきのおいしさを伝えるように。

肩凝りを知らない欧米人に肩凝りのつらさを伝えるように。

 

あなたが今感じている痛みも、それを(健康な)相手に伝えるのは結構難しい話なのです。

 

【痛みの種別】

とはいえ、人が痛みを感じる仕組み自体はそんなに種類が多い訳ではありません。

ですので、仕組みを知っておくと、自分の痛みを誰でも体験したことのあるタイプの痛みに置き換えて表現することができます。

 

教科書的な分類からは少し外れますが、私は痛みがおこる仕組みを3つに整理して捉えています。

 

①炎症性疼痛

これが痛みの代表格になるかと思います。

炎症というとねんざや打撲のようなものを想像されるかと思いますが、それだけでなく、切り傷や皮膚の荒れ、腫瘍によるもの、胃潰瘍・膵炎・肝炎・腎炎など極めて多岐にわたります。

細胞が破壊されるときに放出される炎症物質が痛みを引き起こすため「炎症性疼痛」と呼んでいます。つまり、体のどこかで細胞が壊れているサインがこの痛みです。ズキズキとして熱感や腫れがあり押さえると痛むのが特徴です。また、月経時にはこの炎症物質が放出されるので、生理痛の原因の一つでもあります。

②神経痛

体のどこかで炎症物質が発生すると「痛い」というシグナルが神経を伝って脳へ伝わります。ですが、神経そのものが傷ついたり神経が他の組織に圧迫されたりして刺激されると、痛みがないのに「痛い」というシグナルだけが発生することがあります。これが神経痛といわれる痛みです。電気が走るようなピリピリとした痛みや痺れ感が特徴です。

亜種として血行障害から起こるものもあります。これは筋肉のコリなどで血管が圧迫されて血液が十分に患部に届かないことで神経に酸素や栄養が行き渡らず過敏になることで起こります。痺れ感やズーンとした重さを伴う痛みが特徴です。重度の肩コリの痛みなどはこれに該当するでしょう。

③引っぱり性疼痛

これは組織が引っ張られることで起こる痛みです。強くストレッチすると筋肉が痛いですが、そのようなものと思って頂ければ結構です。いわゆる腹痛は内臓の筋肉が過剰に収縮してまわりの組織を引っぱることで起こったりします。下痢などの腹痛や胃痙攣、子宮の収縮に伴う生理痛に鎮痛剤が効きにくいのは、鎮痛剤が①の炎症物質の発生を止める薬だからです。これらの痛みは鎮痛剤ではなく鎮痙剤が処方されます。

この引っぱり性の痛み、肩腕や足腰でも発生します。これには2タイプあります。

③-ⅰ:筋肉が縮みあがって伸びなくなる

いわゆる五十肩というのはコレです。肩の深部筋が疲労で縮んでしまい、肩の動きを制限するので肩があがらなくなり、無理矢理上げようとすると縮んだ筋肉や周囲組織を引っぱって痛みます。寝ると痛むのも、寝たときに肩の重みで関節が引っ張られるためです。五十肩にロキソニンなどの痛み止めが効きにくいのは炎症性の痛みでないからです。

③-ⅱ:筋力の低下で腕や足の重みを支えられなくなる

循環障害から一時的に筋肉が萎えて、そのため関節を曲げるための筋肉が関節を引っぱれずに逆に関節に引っぱられて痛む、というケースです。この場合、人に関節を動かされても痛まず、自分で持ち上げようとすると痛むのが特徴です。またその部位を触ると筋肉が萎えてペタンとしているのがわかります。

安静時でも体の置き方によっては弱った筋肉が引っぱられてジクジクと痛むことがあり、神経痛と誤診されることが非常に多い痛みです。好発部位は肩・臀部・大腿前~内側で、臀部の場合は進行すると坐骨神経痛を併発することがあります。

③-ⅱのケースなどは漢方では概念があっても西洋医学ではあまり考えられていない概念のため、医療機関で見落とされるケースが非常に多いように感じます。

ヘルニア等と誤診されて牽引や電気治療などをされても良くならないと鍼灸院に来院されるケースが多いですが、筋肉の弱りから来るものですので、あまり体をいじめるような手当は好ましくありません。

また、このようなケースにブロック注射をされるケースも見受けますが、痛みがなくなると弱った筋肉をさらに酷使してより弱らすことにもなりますので、これも好ましくないと考えます。治療の基本は温熱治療などによる循環改善と休養です。

 

【伝える技量がよい治療につながる】

鍼灸院だけでなく、医院や整骨院などを受診する際、ただ「ドコドコが痛い」とだけ伝えるより、この3分類を意識していただいて「ズキズキ痛む(炎症性)」「ピリピリ痛む/しびれる感じがする(神経痛)」「引き攣れるような痛み/ジクジクと痛む(引っぱり性)」など表現の幅を持たせると、医療者側に正確に症状が伝わりやすいです。

効率的な治療を実現するためには、今の体に起きている問題を正確に把握する必要がありますが、そのために全ての検査を行うのは時間的にも費用的にも人体への負担的にも現実的ではありませんし、検査が全ての疾患を網羅している訳でもありません。

そのため、医療者側が症状を正しく把握するためには、会話の中で患者側の持つ情報をどうやって引き出すかが大きなポイントとなります。医療者側がその努力を惜しまないことはもちろん大切なことですが、患者側が的確に症状を伝えるためにはどうしたらいいのか、というノウハウはもっと広まっていいんじゃないかな、と思っています。